研究テーマ

藤村研では、「植物病理学」と「農薬科学」と「微生物遺伝学」の3つの分野の融合領域を基盤として、基礎から応用研究までユニークな研究展開を行っています。主な研究テーマは下記のとおりです。

1) 糸状菌の環境ストレスと分化誘導機構の解明
2) 安心・安全を目指した農業用殺菌剤の新規標的探索
3)殺菌剤の作用機構・耐性機構の解明
4)遺伝子診断技術を利用した植物病原菌のモニタリングと病害防除技術への応用

研究内容

1) 糸状菌の環境ストレスと分化誘導機構の解明

カビの仲間には、日本酒などの発酵に利用されるものや食用キノコなどのように有用なカビ類と植物やヒトに感染する病原菌や毒素やアレルギー成分を生産する有害なカビ類が存在します。これらのカビ類のもつ発酵能力や病原性あるいは二次代謝産物の生産は、環境の変化とそれに伴う分化誘導と密接な関係があります。そこで、アカパンカビをモデル糸状菌として、カビが環境ストレスをどのように受容し、そのシグナルを細胞内で変換し、どのような遺伝子群を発動させ、分化を誘導しているのかについて研究しています。

 

2) 安心・安全を目指した農業用殺菌剤の新規標的探索

世界人口は増加し続けており、安定した食料の確保は、人々の健康のみならず世界の平和のために重要です。農作物はカビが原因による病気で大きな被害を受けています。作物を病原菌から守る様々な技術が検討されていますが、植物の病気を治す薬(化学物質:農薬)の開発は最もシンプルで有効です。しかし、より安全で安心な農薬の開発が望まれています。カビは、ヒトと同じ真核生物ですが、ゲノム情報の比較から、たとえば細胞壁をもつ生物に特有の酵素類が存在することが判っています。カビがもつ特有の代謝経路などに着目して研究を展開しています。アカパンカビの古典的な順遺伝学に加えて、ゲノム情報を利用した逆遺伝学、さらに阻害剤を利用した化学遺伝学などを利用して、次世代の植物保護剤の標的の探索研究を行っています。

2-1細胞壁をもつ生物がもつHis-Aspリン酸リレー系
環境変化を感知するヒスチジンキナーゼ受容体類とそのシグナルを伝達するHis-Aspリン酸リレー因子は、細胞壁をもつ生物が特有にもっている装置です。カビ類はこのタイプの受容体を多数持っていいますが、中継地点のHPT-1は一遺伝子であり、致死遺伝子であることを明らかにしています。

2-2細胞壁の合成酵素とその阻害剤
細胞壁は、細胞を守る鎧のように反応性の低い物質と思われていますが、菌糸が生育したり分化するためは、細胞壁を部分的に分解と合成を同時並行的に精密に調節する機構が備わっていることが判ってきています。カビの細胞壁は植物とは異なる組成なので、殺菌剤の有力標的候補です。

 

3) 殺菌剤の作用機構・耐性機構の解明

農業用殺菌剤の安全性を評価するためには、殺菌剤の作用機構を明らかにすることは重要です。また、耐性菌が出現した場合には、その対処法を考えるために耐性機構を解明することが必要です。我々は、1970年代からブドウや野菜類の灰色かび病の主要な防除剤として使用されていたジカルボキシイミド剤の作用機構を解明しました。さらに、その耐性化が浸透圧センサー遺伝子の1アミノ酸置換であることを世界で初めて明らかにしました。また、QoI殺菌剤に対する耐性変異の出現が、灰色かび病菌では、チトクロームb遺伝子のイントロンの存在の有無により大きく左右されることを見出しました。

3-1 灰色かび病菌のジカルボキシイミド系殺菌剤に対する耐性メカニズム

3-2 灰色かび病菌のQoI殺菌剤に対する耐性メカニズム

 

4) 遺伝子診断技術を利用した植物病原菌のモニタリングと病害防除技術への応用

遺伝子診断技術は、医療分野で急速な進歩をしています。我々は、農業分野で病原菌を検出する遺伝子診断法を構築しており、病害防除技術の開発を支援するツールをして応用しています。大きく分けて2種類の診断系を構築している。

4-1 植物病原菌を定量的に検出する遺伝子診断法
化学農薬に過度に依存しない病害防除技術を開発するために、病原菌の密度の変動を病原菌DNA量としてモニターする遺伝子診断系を構築をしています。群馬県農業技術センターなどと共同で、耕種的病害抑止技術の開発に応用しています。

(http://www.maff.go.jp/kanto/seisan/kankyo/gijyutu/pdf/032_gunma_nasuhanshinicho.pdf)

4-2 農薬の耐性菌の分布を圃場単位で算出する遺伝子診断法
最近開発された殺菌剤は、特定な標的たんぱく質に選択的に結合して強い抗菌活性を示しますが、反面、多くの薬剤で病原菌の標的たんぱく質の点変異(1アミノ酸置換)により、耐性化することが知られています。我々は、蛍光プローブ法、パイロシークエンス法やルミネックス法を用いて、複雑化する農業現場の耐性菌のモニタリングするための手法を構築しています。