GREETING
挨拶
生物は、紫外線や変異原といった外部からのストレス要因のみならず、細胞の呼吸や代謝の過程で生じる活性酸素やDNA複製時の誤りなどの内部要因によって、常にDNAに損傷を被る環境にさらされています。生物はこれに対抗するために進化の過程でDNA修復機構を獲得してきましたが、DNAを修復する能力は生物の種によって大きく異なります。生物の中でも極めて放射線に強い微生物の一群が知られていて、放射線抵抗性細菌と言います。ガンマ線などの電離放射線による生物効果で最も重篤な障害はDNAの2本鎖が切断されてしまう損傷ですが、放射線抵抗性細菌はこのタイプのDNA損傷に対する修復能力にもの凄く長けているのです。生命の維持はDNA損傷をいかに効率良く正確に修復できるかにかかっている、と言っても過言ではありません。したがって、生物が持つDNA修復能力の限界を見極めることは、巧妙な生命現象に対する我々のより深い理解にとって大切なことであるのみならず、生命維持機能を増強する手だてを講じる研究開発に新たな方向性を与えることにも繋がります。
放射線微生物学研究室では、放射線抵抗性細菌の著しく高いDNA修復能力の分子機構解明を通じて、ヒトの一千倍以上もの放射線耐性を示す放射線抵抗性細菌がなぜ放射線に強いのかを調べています。解析には、分子遺伝子学、細胞分子生物学、生化学、生物情報学、構造生物学、生物物理学などの分野で用いられている手法を駆使します。これまでの研究で、放射線抵抗性細菌に特有なDNA修復機構に関わる新しい遺伝子群を複数発見してきましたが、これで放射線抵抗性細菌の放射線耐性機構のすべてが解明された訳ではありません。現在は、放射線耐性に関わる遺伝子の更なる探索とDNA修復遺伝子間のネットワークに関する研究を行っています。また、放射線抵抗性細菌の遺伝子を放射線にあまり強くない生物に導入することによって、放射線耐性を付与する研究も計画しています。
PROFILE
プロフィール
1980年 青森県立弘前高等学校 卒業
1993年 東京農工大学 大学院連合農学研究科 生物工学専攻 修了
1994年 日本原子力研究所 高崎研究所 専門研究員
1998年 マサチューセッツ工科大学 生物学科 客員研究員
2005年 日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 研究主幹
2013年 東洋大学 生命科学部 生命科学科 教授
担当科目
1年次秋学期 基礎微生物学
1年次秋学期 基礎分子生物学
2年次春学期 微生物利用学
3年次春学期 生命科学実験Ⅱ
3年次春学期 放射線生物学
大学院 極限環境微生物学特論
詳しいプロフィール
⇒ 東洋大学研究者情報データベース
⇒ researchmap
⇒ ResearchGate
⇒ 科学研究費助成事業データベース
PHILOSOPHY
研究室理念
学生に望むこと
科学的な思考に基づいた直観力・洞察力を身につけるように心がけてください。この精神を磨くためには、「生命科学の分野だけに閉じこもらず、広い視野に立っていろんな分野のことを学ぶ」ことや「自分の研究が社会とどんな関わりを持つのかを把握すること」が肝要です。生命科学に関する幅広い知識と視野を身につけ、「科学技術」と「現代社会」との関わりを多面的な視点で見据えること、これは、皆さんが将来どのような職業に就こうとも必要な事柄です。また、「サイエンスする心」を持ち、それを外に向けて発信したり、アピールしたりできる能力を若いうちに身につけることも生命科学部で学ぶ学生として大切なことです。この意味で、積極的にいろんなコミュニティーに参加して知見を深めてほしいと思います。放射線微生物学研究室では、このような人財を求めています。放射線抵抗性細菌がなぜ放射線に強いのかという謎を解明する過程を一緒に体験しましょう。