放射線微生物学研究室

Evolutional Origin

放射線耐性獲得の進化的起源

ウラン 238の半減期は約 45億年であるのに対して、ウラン 235の半減期は約 7億年です。 20億年前のウラン 235の同位体存在比は、約 3.7%であると考えられ、現在の軽水炉用燃料の低濃縮ウランに比べて高い。したがって、 20億年前のウラン鉱床では、自然に臨界が起こる条件が整っていたのです。この説は、アーカンソー大学の地球化学者、黒田和夫博士によって、 1956年に提唱されたものです。
 
この説の 16年後、アフリカのガボン共和国のオクロで、臨界に達したと推察されるウラン鉱床が見つかりました。天然ウランの 235同位体存在比は現在 0.7%です。それに対して、オクロから採取された天然ウランの 235同位体存在比が 0.4%と低かったのです。さらに、ネオジムの同位体組成が核分裂起源の組成に一致していました。オクロ鉱床には、高濃度、高純度のウランがあり、地下鉱床であるので、速中性子の減速材としての水も存在していました。速中性子よりも減速された熱中性子の方が、核分裂反応を起こしやすいのです。これらの条件が整い、自然に核分裂連鎖反応が起こり、臨界状態が 100万年程度継続していたと推測されています。オクロ鉱床では、この期間に、 500 トン以上のウランが核分裂反応に関与し、 10トンの核分裂生成物と 4トンのプルトニウムが生成し、 1E+ 11 kWhのエネルギーが発生したと見積もられています。地球上の種々の沈積物で測定されたウラン 238に対するウラン 235の比が一定の値で変動していることから試算して、過去の地球において、約1億個のオクロ型の天然原子炉が稼働していたとも見積もられています。
 
ウラン鉱床は、約 20億年前のシアノバクテリアの出現によって、環境中の酸素が増大して生成したと推察されています。ウランは 4価と 6価の原子価を取りやすく、酸化雰囲気中では 6価になり、水に溶けやすい。水に溶解したウランの 6価は、土壌中の微生物により 4価に還元され不溶性になります。このような循環を繰り返すことで、堆積型のウラン鉱床が生成されたと考えられています。最近になって、ラジオデュランス及びその近縁種のサーマス属細菌にウランを還元する能力があることが報告されています。このことは、両者の共通の祖先型細菌が堆積型ウラン鉱床の生成に係わっていた可能性を示唆しています。1 kWの出力で稼働していた半径 2メートルの炉心を持った典型的な天然原子炉の単位時間当たりの全線量率は 47.4 Gy/hと計算されています。一方、ラジオデュランスは 60 Gy/hのγ線連続照射下でも正常に増殖出来ることが報告されています。天然原子炉が稼働していた 100万年という時間は、生物の新しい種が生まれるのに十分な時間です。以上のことから推察するに、このような 20億年前の環境により、ラジオデュランスの様な放射線抵抗性細菌が誕生した可能性が十分に考えられます。
 
現在は水没して沼の底にあるオクロのウラン鉱山跡の沼底を掘削して、地下生物圏に現在生息する微生物叢を解析するとともに、太古に存在した地下生物圏の微生物が堆積型のウラン鉱山の形成過程に関与していた証拠を摑むための調査研究、地下微生物叢の変化や微生物のゲノムの分子進化に放射線が与える影響を解析する研究、生命誕生場における化学進化に放射線が与える影響を解析する研究も計画しています。