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研究内容

植物バイオテクノロジーによる有用物質の生産

研究の背景

 当研究室では,植物が生産する様々な有用二次代謝産物の効率的生産系の確立を目的として、生理活性フラボノイド,キノン,ポリフェノールなどの生合成経路の解明,その調節・蓄積機構について、植物組織培養系や植物個体を実験材料として、植物生化学的,植物生理学的に検討を行っている。

生理活性プレニル化ポリフェノールの生合成に関する研究

(1)ムラサキ培養細胞におけるナフトキノン骨格形成過程に関する研究 〜シコニン生合成調節機構解明のためのムラサキ培養細胞の選抜〜

【研究背景・目的】
ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon)培養細胞が生産するナフトキノン系赤色色素であるshikoninは、p-hydroxybenzoic acidからgeranylhydroquinone, 3"-hydroxygeranylhydroquinoneを経て生合成される。しかし、その後のナフトキノン環形成過程については、酸素官能基を3個有するナフタレン誘導体が中間体の候補として推定されている以外は、全く明らかにされていない。そこで、この化合物の単離・構造決定などを行うことにより、ムラサキ培養細胞におけるナフトキノン環形成ならびにその調節機構を明らかにすることを考えた。
一方、現在維持しているムラサキ培養細胞におけるshikonin生産能が安定していないため、生合成研究を行うにあたってshikonin生合成誘導に要する日数が異なるなど、結果の再現性に乏しいという問題が生じている。このため、shikoninを安定に生産する株の確立が課題となった。
 本研究では、中間体関連化合物の単離・構造決定を行い、ナフトキノン環形成機構を明らかにすることを目的として、安定したshikonin生産能を有するムラサキ培養細胞株、あるいは中間体関連化合物を多く生産する株の確立を試み、さらに、中間体関連化合物単離法について検討を行った。

【実験方法及び結果】
shikonin高生産株の選抜
ムラサキ培養細胞の選抜は、ステンレスメッシュ(2 mm間隔)を通した細胞小集塊をプレーティングする小集塊選抜法で行った。培地として成長培地(1 µM IAA, 10 µM kinetinを含む改変LS培地)を使用し、ナースカルチャー法を併用した。6週間後に得られた細胞集塊から無作為に100個を選び、一塊ずつ改変LS斜面培地に移植し、1ヶ月毎に4回、個別に継代維持したうち、成長の良好な80系統についてshikonin生産M9液体培地中で19日間培養後、系統ごとのshikonin生産量を比較した。Shikonin生産量に基づいて高(11株)・中(10株)・低(5株)の3つのグループを選び、生産能の安定性について現在検討している。
中間体関連化合物の探索
極微量しか存在しない中間体関連化合物の探索には、主成分であるshikonin, echinofran類が分析の障害となってしまう。そこで、これらの夾雑物を効率的に除く方法について検討を行った。中間体関連化合物は含量が少なく、また不安定であるためM9培地に流動パラフィン(LP)を加えトラップした。LP層からの中間体関連化合物の回収、shikoninなどの除去を目的として、sep-pak silicaによる固相抽出法を用い、n-Hexaneによる吸着・洗浄後、n-Hexane : EtOAc = 8 : 2で溶出することにより、中間体関連化合物が回収された。この方法ではshikoninなどとの分離が困難であったため、prep.-TLCによる精製を試みたところ、かなりの量が分解するものの、中間体関連化合物の極性がacetylshikoninやechinofran Bよりも高く、分離が可能なことが示唆された。
また、中間体関連化合物生産のタイムコースを検討したところ、M9培地への移植後8日目が最も適していることがわかった。これらの結果を基に、先に選抜したムラサキ培養細胞株中に中間体関連化合物高生産株が存在しないかについて現在検討している。

(2)バイカイカリソウ培養細胞系におけるプレニルフラボノール配糖体生産性の向上

【研究目的】
 イカリソウ属植物はメギ科の多年草で、古くから淫羊藿と呼ばれ、4〜5月頃、樹林の下に群がって径1〜2センチの白色花を3〜6個、総状につける。中国や日本などでは古来より滋養強壮薬として用いられている。有効成分としてepimedoside Aやicariinなどの、γ,γ−dimethylallylkaempferolもしくはその4'-methoxy誘導体に複数の糖残基が結合したプレニルフラボノール配糖体が知られている。プレニル基という脂溶性側鎖のフラボノール骨格への導入が、生理活性の発現・増強に深く関わっていることから、イカリソウ属植物におけるプレニル側鎖導入機構ならびに配糖化機構を解明し、その効率的生産系を確立することを目的として、中国・九州地方に自生するバイカイカリソウより誘導した液内振盪培養系を用いて、培養条件がこれらのフラボノール配糖体生産に及ぼす影響について検討した。また、この培養系が生産する化合物としてicariinとepimedside Aが同定されている。これら以外にも複数のプレニルフラボノール配糖体と思われる化合物が含まれているが、それらの構造は不明である。そこで、これらの化合物を精製・単離し、その構造について検討した。
【実験方法】
10 µM 2,4-D, 1 µM BAPを含むMS培地中、暗所、24 ℃で継代維持しているバイカイカリソウ(Epimedium diphyllum)液内振盪培養細胞を様々な培養条件で培養し、プレニルフラボノール配糖体生産量をHPLCで定量した。また、この培養細胞から得たMeOHエキスをToyopearl HW-40Fカラムクロマトグラフィーおよび逆相分取HPLCにより精製することにより、新たに4種の化合物を単離した。
【結果及び考察】
 昨年度の検討により、基本培地を変更することにより細胞成長あたりのプレニルフラボノール配糖体含量が変化することが示された。そこで総窒素量を60 mM、窒素比をNO3-:NH4+=1.9:1に固定し、リン酸濃度の影響について検討したところ、0.375 mMの時に細胞成長あたりのepimedside A含量が増加する一方、他のプレニルフラボノール配糖体含量は、リン酸濃度がより高いときに増加する傾向にあった。MS培地を基本としたときの植物ホルモンの種類・濃度の影響については現在検討中である。また、MS培地もしくはB5培地を使用し、照明下(12,000 Lx)で培養したところ、暗所にくらべて細胞成長量が減少するものの、多くのプレニルフラボノール配糖体含量が増加しており、特にRt10.9分に溶出される化合物の含量が著しく増加した。
 今回単離した化合物4種のうち3種については、1H-NMR分析によりepimedoside Aと同様、kaempferolの8位にγ,γ-dimethylallyl基が結合したdes-O-methylanhydroicaritinの配糖体であり、2種はdiglycoside、1種はmonoglycosideであると推定された。光照射によって生産性が増加する化合物については現在検討中である。

(3)アシタバ再分化培養系におけるプレニルポリフェノール生産に関する研究 〜アシタバ植物体の成長に伴うプレニルポリフェノール生産性の変化〜

 近年健康食品として注目されているセリ科の多年草植物であるアシタバ(Angelica keiskei)は黄色い乳液を滲出し、主にその乳液中に抗酸化作用や抗菌活性等の生理活性を有するプレニルカルコンなどのプレニルポリフェノールが含まれている。
 過去の研究により、アシタバ脱分化細胞では生合成酵素の欠損によりプレニルクマリン及びプレニルカルコンの生合成が行われないこと、また再分化組織ではプレニルクマリンの生合成は見られるものの、プレニルカルコンの生産はほとんど行われていないことが分かっている。さらに、成熟した植物組織と再分化組織の蓄積するプレニルクマリンの種類が異なっていることが示された。これらのことから、プレニルポリフェノール生産には組織分化が起こることが必要であるが、それ以外の要因も関与していると考えられた。
 これらの要因を明らかにするため、発芽したアシタバの生育に伴うプレニルポリフェノール生産性の変化について検討を行うとともに、乳液に含まれるプレニルクマリンの構造を明らかにすることを試みた。
【実験方法、結果及び考察】
1.アシタバ植物体における化合物の分布
 土壌栽培したアシタバ植物体から若い茎を採取し、乳液を回収しHPLC-PDAで分析した。また乳液回収後の組織を、茎、主脈、葉身に分け、それぞれ細断・凍結粉砕後、直ちにエタノール抽出を行い、抽出液を濃縮してHPLC-PDAによって分析した。その結果、プレニルポリフェノールと考えられる化合物は主に乳液中に含まれていることが分かった。また、乳液中にはプレニルクマリンよりもプレニルカルコンが多く含まれていた。
2.アシタバ植物体の成長に伴う化合物含有量の変化
 実験材料として種子から栽培したアシタバ植物体を経時的に収穫し、プレニルポリフェノール含有量を調査した。植物体は、子葉展開時、本葉第一葉展開時、またそれ以降は生育に伴う胚軸の太さに応じて収穫した。凍結乾燥し、粉砕・アセトン抽出後、抽出液を濃縮してHPLC-PDAによって分析した。その結果、プレニルポリフェノールは成長するに従って含有量が多くなること、また、地上部よりも地下部での蓄積量が多い事が分かった。また、成熟したアシタバから採取した乳液とは異なり、未熟な株ではプレニルカルコンよりプレニルクマリンと考えられる化合物の含有量が多かった。株の成長に伴って乳液の量が増加し、プレニルカルコンの量も増加するのではないかと考えられた。
3.乳液中の化合物の単離
 土壌栽培したアシタバ植物体5株から乳液をアセトン洗浄によって回収し、エキスを濃縮後HPLC-PDA、およびシリカゲルTLC分析により、青色蛍光を示す化合物2種を乳液中の主なプレニルクマリンと考え、これらを単離することとした。エキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー、およびprep.-TLCによって精製することにより両化合物を単離した。構造については、現在決定中である。

今回の検討により、アシタバにおけるプレニルカルコンは、組織の分化に加え、成熟によって蓄積量が大きく増加することが分かった。このことから、プレニルクマリンについても、組織分化だけでなく組織の成熟がその生産に関与している可能性があると考えられる。今後はアシタバ再分化組織に含まれるプレニルクマリンの単離を行い、乳液中のプレニルクマリンとの違いについて検討していく必要があると思われる。

(4)キク科植物培養系におけるポリフェノールの生産 〜チコリ培養細胞系におけるポリフェノールの生産に関する研究〜

【背景・目的】
キク科植物のチコリは、イヌリンや苦味質、タンニン、糖類、ペクチン、アルカロイドのほか、抗酸化作用・解毒作用・消化促進作用などの効果が期待されるチコリ酸や様々なポリフェノールを含んでおり、医薬品への利用が望まれている。本実験では、チコリにおける機能性成分の生合成調節機構を明らかにし、その効率的生産を可能とするために、チコリ培養細胞系が生産するポリフェノールの単離、構造決定を行った。また、光や培地組成のポリフェノール生産への影響について検討した。

【実験方法】
誘導方法として、チコリの花茎をTween-20を含む1 % 次亜塩素酸ナトリウム水溶液により滅菌処理を行った。滅菌した花茎を0.5 cm~1 cmに切り、BAPとNAAもしくは2 , 4-Dを含むMS 0.3 % Gelrite固形培地に置床し、暗所、24 ℃の条件下で培養した。得られたカルスを1ヶ月毎に継代し、9ヶ月目以降の培養細胞を以下の実験に使用した。培養した細胞は収穫、凍結乾燥した後、MeOHで超音波抽出し、含まれているポリフェノールをHPLC-PDAで分析し、植物体の地上部と地下部の結果と比較した。培養細胞中の化合物は、MeOH抽出、分液操作の後、Toyopearl-HW40F(5 cm i.d. ×100 cm)によるカラムクロマトグラフィー、分取HPLC(Shodex C18M20E, 20×250 mm, H2O/CH3CN/HCOOH = 82:18:0.1, 6 ml/min, 40 ℃)により単離を試みた。また、光や培地組成によるチコリ培養細胞系の生理活性物質の生産性への影響を調べるために、培養細胞約4 gをMS培地、1/2MS培地、B5培地、M9培地に0.3 % Gelriteを加えた固形培地 (30 ml) に移植し、暗所(24 ℃)、3,000 lux(24時間連続光、24 ℃)、12,000 lux(24時間連続光、24 ℃)の培養条件下でそれぞれ1ヶ月間培養後、収穫・定量した。

【結果】
チコリ培養細胞には、UVスペクトルからコーヒー酸誘導体と思われる化合物2種類が含まれていた。これらの化合物はチコリ植物体の地下部に主に含まれていた。オーキシンの種類および濃度を変更してカルスを誘導したが、どの条件でも同じ化合物を作っていたので、細胞成長が良かった100 μM NAA, 1 μM BAPを含むMS 0.3 % Gelrite固形培地で培養した細胞を以降の実験に用いた。チコリ培養細胞が生産する化合物を単離・構造決定するために、乾燥した細胞(53 g)を100 % MeOHで抽出し、濃縮した残渣を水に懸濁後、ヘキサン、ジエチルエーテル、ブタノールで順次分液したところ、ブタノール層に目的の化合物が多く含まれていた。シリカゲルTLCによる単離を試みたが、化合物は分解されることが分かった。そのため、Toyopearl-HW40F、逆相分取HPLCにより精製を試みた。得られた化合物の構造については現在検討中である。また、光と培地組成のポリフェノール生産への影響についても、現在検討中である。





機能性成分を指標とした植物の健全育成に関する研究

(1)環境ストレスが水耕栽培コマツナに与える影響

【目的】
 植物は環境からのストレスに対して様々な防御反応を示すことが知られている。
 我々の研究室では、コマツナ(Brassica rapa var. perviridis)をはじめとしたアブラナ科葉菜類における二次代謝産物生産が様々なストレスによってどのような影響を受けるかについて検討を行い、ストレスに関係する植物ホルモンのうち、ジャスモン酸メチル(MJ)では水溶性二次代謝産物生産が増加すること、またエチレンやサリチル酸では化合物生産に大きな変化が見られないことを明らかにしてきた。また、β-1,3-glucanや chitosanなどの多糖、アブラナ科植物の病原菌であるVerticillium longisporum菌体では、これらの二次代謝産物生産に顕著な差が見られないことも明らかにしてきた。
 一方、植物に対するストレスとしてはこれまで検討してきた生物由来のものだけでなく、重金属や農薬などの化学物質に由来するものも多い。そこで、栽培期間が短いコマツナを用い、銅イオンや農薬、また近年、環境汚染物質として生態系の撹乱が懸念されている抗生物質が生育や二次代謝産物生産にどのような影響を及ぼすかについて検討することとした。
【材料及び方法】
植物としてコマツナ(Brassica rapa var. pervidis 品種名:さおり)を使用し、生命環境科学研究センターガラス室内で園芸試験場養液Ⅰを用いて水耕栽培したものを実験に使用した。
銅イオンの影響については、播種後3週間水耕栽培した後、硫酸銅(最終濃度0-100 mM)を水耕液に添加する方法と、3週間栽培後、コルクボーラーで葉身に穴をあけ、ここに硫酸銅水溶液を塗布する方法を用いた。処理後1週間後に地上部を収穫し、凍結乾燥後、MeOHにより抽出し、HPLCにより二次代謝産物を分析した。
農薬として、ダイアジノン(H2Oに溶解、最終濃度0-3000 mg/L)、また、抗生物質としてレボフロキサシンン(0.1 M HClに溶解、最終濃度0-15 mg/L)及びクラリスロマイシンン(DMSOに溶解、最終濃度0-4.2 mg/L)を使用した。播種後1週間後よりこれらの薬物を投与することとし、播種後1週間毎に水耕液を交換する際に、各薬物を添加した水耕液を用いた。各薬物は最終濃度の1,000倍濃縮液をそれぞれ調整し、水耕液に1/1,000倍量を添加した。各植物体の収穫・抽出・分析については硫酸銅の場合と同様の方法で行った。
【結果及び考察】
硫酸銅を水耕液に投与した場合、濃度依存的に成長は抑制され、100 mMではほとんど枯死した。コマツナが生産する二次代謝産物のうち、極性が非常に高いRt25、Rt30、Rt33の化合物は硫酸銅添加によって減少したが、MJ投与によって増加が認められたRt48、Rt49の化合物は増加傾向が認められた。葉に傷をつけて硫酸銅を投与した場合、成長、化合物生産ともほとんど影響は見られなかった。
コマツナの栽培において使用が認められているダイアジノンを投与した場合、成長、化合物生産ともほとんど影響は見られなかったことから、検討した濃度範囲ではほとんどストレスがかかっていないと考えられた。
レボフロキサシンを投与すると、濃度依存的に生育は抑制され、感受性菌の生育を阻害するとされる0.05 mg/Lで生育は約40 %阻害された。さらに濃度に比例して葉の色が薄く白くなっていた。レボフロキサシンが葉緑体に影響を及ぼし、成長を抑制した可能性がある。二次代謝産物生産については、現在検討中である。
クラリスロマイシンに関しては、溶解補助剤として用いたDMSOによる毒性が顕著であったため、投与方法を含め改めて検討する必要がある。

(2)コマツナ不定根における二次代謝産物生産に関する研究

【研究背景・目的】
植物は二次代謝産物を生産し、様々なストレスから身を守っている。二次代謝産物の中には人間にとって有用なものも多く存在し、それらを効率的に生産する研究が進められている。このとき、栽培環境の制御が困難であることから、植物組織培養系を用いての研究がしばしば行われる。私達の研究室では、アブラナ科のコマツナの不定根培養系を使用して、環境からのストレスによって二次代謝産物生産にどのような影響があるかについて検討してきた。これまでの研究により、ジャスモン酸メチル(MJ)によって、特定の化合物の生産増加が認められている。しかしながら、これらの化合物の構造については未だ解明されておらず、その生合成調節の詳細について検討することができない。そこで、化合物の単離・構造決定を容易に行うために、より効率的な二次代謝産物生産条件について調査することとした。

【実験方法及び結果】
実験材料としてコマツナBrassica rapa var. perviridis(品種名:さおり)の不定根培養系を使用した。1 μM IBAを含むMSの液体培地中、暗所、24 ℃、100 rpmで3週間毎に継代培養した不定根0.25 g fr. wtを、様々な培地(50 ml)に移植し、3週間振盪培養後、細胞を収穫・凍結乾燥し、粉砕・メタノール抽出したエキスを、HPLCにより分析した。
1. 硫酸銅の影響
コマツナ不定根培養系にMJを投与すると、最終濃度1 - 100 µMの時にHPLC分析でRt49分に溶出される化合物の生産が著しく増加したが、100 µM以上では成長は抑制された。硫酸銅を本来0.1 µM含むMS培地に、さらに硫酸銅を0.3 - 100 µM追加した培地で培養したところ、30 µM追加までは成長にはほとんど影響がないのに対し、100 µM追加では枯死した。MJ添加の際に認められたRt49分の化合物の生産増加は認められず、その他の化合物含量もほとんど変化しなかった。コマツナ不定根培養系においては、重金属ストレスによる二次代謝産物生産の増加は起こらないものと考えられた。
2. 培地組成ならびに光照射の影響
 基本培地として、MS、MS培地を2倍に希釈したもの(1/2MS)、B5、M9培地を使用し、それぞれ3 % sucroseおよび 1 µM IBAを添加した液体培地に調製し、これに不定根を移植し、暗所もしくは12,000 Lxの照明下で24 ℃、100 rpm で3週間振盪培養した。いずれの場合も、細胞成長量は暗所で培養した場合の方が高いのに対し、不定根の乾燥重量当たりの化合物含量は照明下で培養した時の方が高くなった。実験に使用した培地50 ml当たりの化合物量を計算したところ、基本培地としてMS培地を使用して照明下で培養した場合、もしくは1/2MS培地を用いて暗所で培養したときに、各化合物の生産が最も効率的になると考えられた。照明下で二次代謝産物生産を行うことは、設備の面から課題があることから、今後、1/2MS培地を基本とし、塩組成を詳細に検討することにより、より効率的な生産条件が決定出来ると思われる。
3. 植物ホルモンの影響
MS培地を使用し、オーキシンとしてIAA、もしくはIBA(0.1 - 100 μM)を添加して培養したところ、成長量はIAA、IBAともに濃度が増加するにつれて増加する傾向にあった。化合物含量や他のオーキシンの影響については、現在検討中である。