ノクシカタとは?

大嵜晃子

(写真提供:シャプラニール)

 ベンガル語(バングラデシュの国語)で、「ノクシ」はデザイン、「カタ」は布を意味する。かつてベンガル地方の女性たちは、家庭で「カタ」という刺し子の布を作っていた。このカタを、農村女性の収入向上のために、NGOが新たに商品として開発した。ノクシカタの誕生である。

 

@カタからノクシカタへ

 カタは東ベンガル地方で母から娘に伝えられてきた伝統的な刺繍である。使い古したサリー(女性用の1枚布でできた衣装)や、ルンギ(男性の筒状の布の衣装)を3〜4層に重ね合わせ、密な刺し子を施して冬用の布団やベッドカバーなどに再利用する実用的な技術である。これらのカタは売買されることはなく、基本的に家族が私的に利用したり、親戚に贈与したりするものであった。モチーフには、当時の女性たちが日常生活で目にする生活用品や農耕器具、花、鳥、象、牛などの動植物、ヒンドゥー教の象徴である神々の像、モスクなどの宗教的なモチーフが描かれていた。また、カタは母親と娘を関係づける働きをしていた。よいカタを作ることのできる娘は、家の仕事をきちんとこなす理想的な嫁になるとされ、嫁選びの指標のひとつでもあった。

 

A商品としてのノクシカタ

 商品であるノクシカタは、市場や消費者の動きに敏感に反応する商業的性格を持つようになった。宗教色は薄れていき、デザインとしての面白さ、色使いの新しさなどの工夫が導入されていった。現在、多くのNGOがノクシカタ製作を推進している。その技術は伝統的に母から娘へと受け継がれてきたものに根ざしているため、学校へ行けなかった貧しい人でも作ることができる。

 

Bノクシカンタのモチーフ

 ノクシカタにおいて盛んに取り上げられるモチーフをいくつか紹介する。

<象> バングラデシュの自然に生息する象は親しみがあるからという理由とともに、物質的な富の象徴として好んで描かれる。

<舟> バングラデシュには大小さまざまな河が交差しており、舟が行きかっている。舟は旅立ちを意味し、愛する夫や息子の旅の無事への願いが込められている。

<魚> ベンガル人は河魚をよく食べる。魚は身近な存在である。多くの息子を望んでいたことを反映して、多産の象徴として人気がある。

<蓮> 様々な意味を持っているモチーフ。生命の力、その生命の母体である女性の力を象徴していると言われている。また、仏や神の台座であることから極楽浄土の世界とも結びつけられる。

 

※ 参考文献

五十嵐里奈(2002)開発援助NGOによるパッケージ型生産―バングラデシュにおける刺繍布製品ノクシ・カンタの誕生―。経済と社会30号、59−83頁。

http://www.shaplaneer.org/(シャプラニール)

 

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