research
 近年普及してきた人間 ドックと呼ばれる精密検査を受けることで、私たちは自分の体の異常をいち早く察知することができます。しかし検査に要する時間や必要な機器は検査部位ごと に異なり、また体への負担も少なからずあります。そこでヒトの体を極力傷つけずにヒトの体内情報を得るための分析法の確立を目指しています。主に血液や排 泄物中に含まれる微量物質の構造、量を正確に測定することによって、様々な疾病を特定することができれば予防や治療の両観点からも非常に有用となることが 期待できます。

1. 複数胆汁酸種の一斉分析
 肝臓で合成される胆汁酸は脂質の吸収に必要不可欠ですが、一部の胆汁酸は大腸に到達し腸内細菌によって細胞傷害性の強い構造である二次胆汁酸に変換され ます。この二次胆汁酸は大腸癌のリスクファクターの一つとされているため、糞便や血液中の様々な種類の胆汁酸量を測定すれば、大腸内環境を始めとして体の 胆汁酸関連代謝の状況も把握することができます。糞便、血液から汎用的な抽出法で胆汁酸を取り出し、様々な胆汁酸量を迅速に一斉分析する方法を開発しまし た(Hagio M et al. 2009)。
 この方法を用いて、大腸癌のリスク軽減効果があるとされている走行運動と大腸内胆汁酸の関係を調べたところ、運動によって大腸内総胆汁酸量に変化がないものの二次胆汁酸比率が低下することが明らかとなりました(Hagio M et al. 2010)。
BA
ラットの糞中に含まれる各種胆汁酸のLC/MSによる一斉分析結果。
ピークの大きさの違いは糞中における様々な胆汁酸の含有量の違いを示しています。


2. 特定タンパク質の絶対定量
 タンパク質の定量や検出には、ブラッドフォード法やウエスタンブロット法を使用することが多いですが、前者は複数タンパク質の合計としての定量であり特 異性を求めるものではありませんし、逆に後者は特異性の高い検出力を持っているものの定量目的で用いられることは少ないです。そこで、LC/MSを用いて タンパク質を定量しようと考えました。世の中には膨大な種類のタンパク質がありますが、それぞれの構造には特異性の高いアミノ酸配列があるはずです。その ようなアミノ酸配列を見つけ、その特定部分をLC/MSでモニターすることができれば、特異性高くタンパク質を定量することができるはずです。現在、がん の早期発見につながるマーカーを見つけるべく、LC/MSでのタンパク質定量法の検討とともに新たな知見獲得を目指しています。
orbitrap
質量分析計(orbitrap型)