当ゼミで身につけて欲しいと考える「力」は「読む(聴く)力」「考える力」「書く力」「伝える力」、そして何より「組織の一員として考え行動する力」すなわち「組織力」です。
私の研究テーマは、大きくは組織行動ですから、それに関わる学問分野に関しては、それなりに自信を持って教えられます。それが行動経済学であり、教育学であり、また社会学や心理学であるわけです。ただし、私はあくまで経営学者ですから、これら隣接分野を網羅しているわけではありません。しかし、これら分野に関心がある方には、どのような勉強をすればいいかということを、ある程度までは案内することができるということです。
こうした、専門的な学問分野の高度な知識を身につけることは、たしかに大切なことです。しかし、とくにゼミのような少人数の、継続的な教育の場において、私が重視しているのは実は専門教育ではありません。私がもっとも重視しているのは、学生が自らの学習を組織することができる力、経営学的に表現すれば「組織力」の涵養、習得です。
「学習」とは、知識の定着のみを意味するのではありません。知識の修得と、実践を通じてその知識の意味(使い方)を理解することです。知識の修得は、基本的には本(書かれたもの)を読み、その辞書的・教科書的な意味を理解し、記憶することによって行われます。しかし「知っている」ことと「できること」は別です。「できる」ようになる、つまり修得した知識を「実際に使える」ようになるには、実践が欠かせないのです。
このことは、料理やお菓子のレシピを例にとると理解しやすいかもしれません。例えばパウンドケーキのレシピは、ちょっと検索してみればネット上にいくらでもあります。最近は動画付きのレシピもたくさんあります。でも、レシピを見(て憶え)たからといって、パウンドケーキを正しく上手に作れるかというと、そうではないですよね。
たいていのパウンドケーキのレシピには「バターと卵は常温に戻しておくこと」と書かれています。そうすると生地が「分離しにくい」からです。パウンドケーキのレシピを実践したことのない人、実際にパウンドケーキを作ったことのない人には、その知識の意味がわからないはずです。ひょっとしたら、教科書的な意味はわかるかもしれません。バターは油、卵は水ですから、油と水は混ざりにくいということを理科の知識として知っている人は多いでしょう。でも、サラダ油のような油ではなくバターと、水道水のような水ではなく卵が混ざらない状態、分離した状態は、どのようにして理解することができるでしょうか? パウンドケーキのレシピを実践して(そして、理想的には失敗して)みないといけませんよね。
パウンドケーキの生地が、バターと卵を常温に戻しておくと分離しにくい理由、そもそも油と水であるバターと卵が混ざる理由を、ここでは説明しません。この文章の主旨から外れるからです。でも、それではあまりに不親切にも思えますので、分離してしまった生地の状態と、きちんと混ざった(乳化した)生地の状態を示しておきます。