ゼミのテーマ

ワーク・モチベーション、組織均衡

秋学期になってゼミ募集が始まると『ゼミ応募ガイド』という冊子(2020年度より電子媒体になっているみたいです)が 1年生に配布されます。その藤田ゼミのページには「テーマ」として「ワーク・モチベーション、組織均衡」と書かれています。これは正確には、ゼミのテーマというより担当教員の研究テーマです。

私が専門的に研究しているのは、働く人の仕事に対する動機づけで、これを経営学の分野ではワーク・モチベーションと呼びます。人が組織に所属して、その中で仕事をしていくということは、それに先立って人が組織の一員になっているということです。人がいなければ当然、組織は成り立ちませんから、どうして人は組織に参加するのかということも説明されなくてはなりません。人が組織に参加することで組織が成立し、人が組織に参加し続けるのであれば組織は存続します。反対に、人が組織から退出してしまうのであれば、いずれ組織はなくなってしまいます。組織が成立し、存続している状態を、経営学の分野では組織均衡と呼びます。

ワーク・モチベーションであれ、組織均衡であれ、それらが説明の対象としているのは組織行動です。人が組織との関わりの中でとりうる行動のことを、組織行動といいます。ワーク・モチベーションは、経営組織論の下位分野であるミクロ組織論の中核的理論です。組織均衡は、経営組織論のうちでも近代組織論の基盤となる中核的概念です。したがって私の専門分野は、ミクロ組織論と近代組織論ということになります。

ゼミの概要

『ゼミ応募ガイド』には次のように記載されています。

組織とは何か、組織化とはどういうことかを常に意識しながら、身近な組織現象・社会現象や組 織行動について考えていきます。目標は、日常に疑問を持ち、その謎を解き明かすだけの力と知識を身につけることです。具体的には、組織論だけでなく、経済学とくに行動経済学、教育学、社会学、心理学といった分野の理論・考え方を学びます。

当ゼミで身につけて欲しいと考える「力」は「読む(聴く)力」「考える力」「書く力」「伝える力」、そして何より「組織の一員として考え行動する力」すなわち「組織力」です。

私の研究テーマは、大きくは組織行動ですから、それに関わる学問分野に関しては、それなりに自信を持って教えられます。それが行動経済学であり、教育学であり、また社会学や心理学であるわけです。ただし、私はあくまで経営学者ですから、これら隣接分野を網羅しているわけではありません。しかし、これら分野に関心がある方には、どのような勉強をすればいいかということを、ある程度までは案内することができるということです。

こうした、専門的な学問分野の高度な知識を身につけることは、たしかに大切なことです。しかし、とくにゼミのような少人数の、継続的な教育の場において、私が重視しているのは実は専門教育ではありません。私がもっとも重視しているのは、学生が自らの学習を組織することができる力、経営学的に表現すれば「組織力」の涵養、習得です。

「学習」とは、知識の定着のみを意味するのではありません。知識の修得と、実践を通じてその知識の意味(使い方)を理解することです。知識の修得は、基本的には本(書かれたもの)を読み、その辞書的・教科書的な意味を理解し、記憶することによって行われます。しかし「知っている」ことと「できること」は別です。「できる」ようになる、つまり修得した知識を「実際に使える」ようになるには、実践が欠かせないのです。

このことは、料理やお菓子のレシピを例にとると理解しやすいかもしれません。例えばパウンドケーキのレシピは、ちょっと検索してみればネット上にいくらでもあります。最近は動画付きのレシピもたくさんあります。でも、レシピを見(て憶え)たからといって、パウンドケーキを正しく上手に作れるかというと、そうではないですよね。

たいていのパウンドケーキのレシピには「バターと卵は常温に戻しておくこと」と書かれています。そうすると生地が「分離しにくい」からです。パウンドケーキのレシピを実践したことのない人、実際にパウンドケーキを作ったことのない人には、その知識の意味がわからないはずです。ひょっとしたら、教科書的な意味はわかるかもしれません。バターは油、卵は水ですから、油と水は混ざりにくいということを理科の知識として知っている人は多いでしょう。でも、サラダ油のような油ではなくバターと、水道水のような水ではなく卵が混ざらない状態、分離した状態は、どのようにして理解することができるでしょうか? パウンドケーキのレシピを実践して(そして、理想的には失敗して)みないといけませんよね。

パウンドケーキの生地が、バターと卵を常温に戻しておくと分離しにくい理由、そもそも油と水であるバターと卵が混ざる理由を、ここでは説明しません。この文章の主旨から外れるからです。でも、それではあまりに不親切にも思えますので、分離してしまった生地の状態と、きちんと混ざった(乳化した)生地の状態を示しておきます。

パウンドケーキ01パウンドケーキ02

話を元に戻しましょう。人が学習するためには、まず知ること、知識を修得することが必要です。次に、修得した知識を実践すること、知識の使い方を理解することが必要です。この二つが行われて初めて、学習が成立したことになります。そして人は、学習することによって「できること」がどんどん増えていきます。学習の前後で、人の「できること」のリストは別のものになります。極論すれば、人は学習することで別人になっていく、人格的に成長していくのです。

私がゼミ教育でもっとも重視するのは、学生が「学習」のこのような意味を理解し、ゼミという一つの組織の中でそれを実践していくことです。組織の一員になるということは、その組織の中で与えられる役割を果たし、組織に貢献することが「できる」ようになるということです。組織の中で「できる」ことがいつまで経っても変わらないようでは、いつまでもいちばんの下っ端でいるしかありません。学習をして、人格的に成長しなければ、組織にとって欠くべからざる存在、余人を以て代えがたき存在にはなれないのです。人格的な成長を遂げる能力、それが「組織力」に他ならないのです。

だから、藤田ゼミでは輪読を重視します。まず知ること、それなくして学習は成り立ちようがないからです。もちろん実践も必須ではあるのですが、大学(だけでなく学校)で学ぶ知識のすべてを実践することができるような状況や文脈というのは、そう簡単には用意することができません。それらはみなさんが生きていく、長い時間の中で不意に訪れるものなのです。そのときのために、今はとにかく勉強をしておきましょう。

ゼミの進め方

演習内容

学術書あるいは学術論文の輪読を行います。毎週 1名ないし 2名の報告者を指名しますので、報告者は学術書の該当章または割り当てられた学術論文をもとに発表を行ってください。報告者以外の学生は、検討文献を熟読し、疑問点や理解できなかった点をリストアップしてゼミに望んでください。

報告者の発表はプレゼンテーション形式で行います。報告を担当するゼミの当日までに、“Microsoft PowerPoint”を利用して報告用スライドを、“Microsoft Word”を利用してレジュメを作成してください。プレゼンテーションに使用するノートパソコン、タブレットなどは各自ご用意ください。報告用スライドとレジュメを、各自で人数分印刷して持参してください。

報告者から報告を行ってもらったのち、全員でディスカッションを行います。ディスカッションには必ず全員が参加してください。検討文献を読んでいるときに出てきた疑問点などを、報告者以外の学生は報告者に対して質問し、報告者や他の学生がこれに答えます。

開講形態

「演習」と「基礎演習」を合併して開講します。2~4年生全員が3~5限を通して出席することになります。

春学期は 2、 3年生を中心に輪読を進めます。 4年生もゼミには原則として全出席していただきますが、報告を担当させることはありません。 4年生にはコメンテーターとして 2、 3年生の報告に対してアドバイスをしていただきます。

秋学期からは、前半は 2、 3年生を中心とする輪読および報告、後半は 4年生による輪読および報告ないしは卒論プロポーザルを行います。上級生による報告、プロポーザル、ディスカッションを、下級生はお手本としてよく観察し、自分たちの今後の大学生活に生かしてください。下級生の報告、ディスカッションに対して上級生は、これまでの経験を生かして指導、アドバイスをお願いします。

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