クマリン化合物ってなに? What is “Coumarins”?

 

植物に見られるクマリン化合物(例)

 植物は酸化ストレスや植食性動物による食害、傷害などから身を守るために様々な物質を作ります。

 クマリンはサクラやスイートクローバーなどに含まれる二次代謝産物で桜餅の甘い香り成分で特徴的な芳香を呈します。

 その類縁体は植物界に広く存在しています。これらの化合物は抗菌、抗酸化活性を示すとともに、複数の水酸基による鉄イオンのキレート能を利用した、土壌からの鉄イオンの吸収にも機能していると考えられています(Schumid NB et al., Plant Physiol. 2014 164, 160-72)。 

 また、干し草に使われたスイートクローバーで微生物によってクマリンが、さらに代謝をうけジクマロールができることが知られています。ジクマロールは脊椎動物の血液凝固反応を阻害する生理活性を示すため、これを食した家畜が出血死する症状が報告されました。これをきっかけとしてクマリンが注目されるようになりました。

 ジクマロールをリード化合物として、ワルファリンが作られました。ワルファリンは現在、医薬品としての血液凝固阻害剤、および殺鼠剤として用いられています。

 その他にも、クマリンを基本骨格としてさらにフラン環が融合したフラノクマリン類およびピラン環が融合したピラノクマリン類には、私たち人の腸管細胞の代謝酵素P450を阻害する活性が知られています。この活性による症状は、ほかの薬剤と一緒に摂取することで現れます。すなわち、本来ならば腸管代謝酵素によってある程度代謝された後に血液に入るべき薬剤がフラノクマリン類によって代謝が抑えられてしまているがために、結果、想定以上の量の薬剤が血中に取り込まれてしまいます。同時摂取した薬剤が血圧降下剤などの場合、意識を失うなど危険な状態になってしまうのです。

 フラノクマリン類はかんきつ類やセリ科植物に含まれているため、グレープフルーツジュースと一緒に薬を飲んではいけません、と注意書きがされている薬が多くあります。