これは階層システム理論を情報システム設計に応用したものである。第1に意思決定を目標追求モデルとして定式化している。第2に組織の意思決定構造を階層システムとして表現している。第3に情報システム設計をひとつの意思決定と見なして、情報システム設計者の意思決定内容がどのようなものであるかを定式化している。
2○「第4章 情報と意思決定、第5章 ゲーム理論、第6章 階層システム」高原康彦・中野文平『経営システム』日刊工業新聞社 (1991) pp.77-152
この著作では階層システム理論の意義を訴えている。まず第4章では各種の意思決定原理とベイズ意思決定理論における情報の価値の計算に触れている。また第5章では非協力ゲーム理論における各種の均衡概念を述べている。これらは氏の展開する階層システム理論の枠組みのなかで定式化されている。これらの基礎固めにもとづいて次の第6章(階層システム)が展開されている。
第6章では、相互作用予測原理と相互作用均衡原理による組織設計論が展開されている。具体的な問題としてナッシュ均衡や組織最適の階層的実現問題を扱っているが、その他の論文と違って、数学の不得手な読者にも分かるように例題を用いて解説している。
3「第10章 経営情報と人工知能」涌田宏昭編『経営情報科学総論』中央経済社(増補改訂版:1992)pp.205-224.
この著作は先端的な情報技術である人工知能について概説し,企業経営における応用可能性について述べている.専門家システム(エキスパートシステム)は人工知能の技術のひとつの応用事例であり,人間の専門家の知識をコンピュータに保存し,それを利用して推論を行なう情報システムのことである.この著作ではとくにエキスパートシステムの推論方法について述べ,意思決定支援の立場から応用可能性を考察している.
4「階層モデルを利用した組織行動のシミュレーション:在庫管理の例による研究支援可能性の検討」東洋大学経営研究所論集 12号(1989.2)pp.59-72
この論文は,企業組織意思決定行動の研究のために,シミュレーションを利用することが有効であろうという結論を導いている.ここでは在庫管理を例として,階層組織のシミュレーションプログラムを実際に作成している.この論文の特徴は,モデルの階層組織の要素が「推論するシステム(エキスパートシステム)」であることである.結論としてシミュレーションによる研究の有効性と,構築経験をもとにした若干の改善案を示している.
5「二階層モデルによる生産消費システムの構造分析:競売人機能の定式化と意思決定の構造」東洋大学経営研究所論集 13号(1990.3)pp.81-92
この論文は著者の初期的,試行的な研究であり,二階層モデルの構築段階にあたる.例として,生産消費システムを二階層モデルによって表現している.上位意思決定者は競売人であり,仮の価格を設定する.下位意思決定者は生産者と消費者であり,彼らはその価格のもとで最適な生産量と需要量を決定する.上位の競売人は生産量と需要量が一致したときにOkをだす.そのようなモデルである.結果として二階層モデルによる組織研究の適用範囲が広いのではないかと結論している.
6「意思決定モデルの存在定理」東洋大学経営論集第35号(1990.3) pp.11-21
著者の階層システム理論における要素は意思決定であるが、これは目標追求モデルと呼ばれる数理モデルによって定義されている。この目標追求モデルは、特殊化すると2つに分類され、パラメータ選択モデルと行動選択モデルに分けられる。
前者はパラメータの変化に伴ってシステムの入力出力の関数的関係が変化するプロセスを管理するための意思決定を表現したものである。後者は組織における人間行動(ここではH.A.サイモンが誘因と貢献の組と定義しているもの)をどのように決定するかを表現したものである。 この論文では、それぞれの特殊モデルの異同を明確化し、適用範囲を検討している。つまりモデルの存在条件を明らかにしている。
7 "Coordination System for Realizing Nash Equilibrium" in proceedings of '92KMIS: Internationl Conference, Korean Society of Management Information Systems (1992.6) pp.185-191
ここではナッシュ均衡を実現するための階層的組織設計論を展開している。ナッシュ均衡が複数個あるときには、どの均衡を達成するかの合意が得られない非協力ゲームの設定では、組織全体としての非合理的な解に達する危険性がある。したがって調整のメカニズムが必要である。第3者の調整者を導入し階層的な構造を用いて調整を行なう。その調整方式として相互作用予測原理が有効であることを証明している。
8 "Algebraic Models of Organizations" 京都大学 数理解析研究所考究録 809号 (1992.6) pp.66-75
標題の通り、意思決定を要素とするシステム(すなわち組織)の代数学的なモデルを提案している。かつてH.A.サイモンは経済理論と組織理論の比較を行なったが、それは解析的な枠組みを必要としていた。この論文は、組織の一般的な枠組みを代数的に定義しているところに特徴がある。そのため微分概念が不要となり、しかも誘因効用と貢献効用の分離的扱いをしないで、経済理論における企業家最適と、組織理論における組織最適の比較を行なっている。
9「組織均衡と企業家最適の代数的性質」東洋大学 経営研究所論集16号 (1993.2) pp.49-59
この論文の基調は、前論文"Algebraic Models of Organization"と同じである。異なるところは、各種の定式化がすっきりとして論旨が通りやすいこと。また「完全競争の仮定のもとでは、企業家最適と組織最適が一致する」という定理が、前論文よりも簡単な証明になっていることである。前論文では証明が分かりにくかったのを改善している.
10 "Behavioral Characterization of Discrete Event Systems" in proceedings of AISP'94: 4th. annual conference on AI, Simulation and Planning, IEEE computer society (1993.9) pp.127-132
離散事象システム(Discrete Event Systems)とは、連続的に流れる時間軸のなかでポツンポツンと刺激がやってきて、ポツンポツンと反応するようなシステムのことである。このようなシステムのモデルとしてZeigler(ジーグラー)教授が提案したのが離散事象システム仕様 (DEVS: Discrete Event System Specification)である。このモデルは情報システムなどのシミュレーション研究では広く知られており、現在スーパーコンピュータにも搭載する試みがなされている。
一方著者は、この論文のなかでDEVSモデルの適用限界を明らかにしている。つまり定理として「離散事象入力出力をもち、因果的で定常的な入力出力システムはすべてDEVSモデルで記述することができる」ことを証明している。この論文のシステム科学的な意義は適用限界の明確化であるが、著者の研究全体のなかでは、むしろ情報システム設計論に位置づけられるものと考えられる。
11○「組織最適を実現する調整システム」オフィスオートメーション学会誌 vol.15, no.2 (1994.6) pp.83-90(査読あり)
この論文は氏の研究の典型的なものである。研究枠組みとしての階層システムを定義し、意思決定の調整方法として応用範囲の広い「実行可能性調整方式」を提案している。個々の要素が最適を追求しても、組織全体として最適になることは稀である。したがって調整が必要となる。そこで組織の最適解を実現するための調整方式が提案されている。さらにH.A.サイモンの組織論や、経済学への応用を提示している。
12◎「意思決定の調整:調整理論の枠組み」東洋大学経営論集41号 (1995.3) pp.79-97
この論文は調整理論の基本的な研究枠組みを提示している.複雑な意思決定を組織的に行なうには各構成員の間に調整が必要である.どのような調整があったのか,どのような調整をすればうまくいくのか,といった問題を解きたいというのが動機となっている.この問題を筆者は階層システムの視点から分析をすすめる.筆者の定義する階層システムは意思決定を要素とし、それらが階層的に配置されており、メッセージを交換しながら共同作業を行なうシステムのことである。調整は上位階層にある意思決定者が行なう.この論文は,階層システムを数学的に定義し,若干の基礎的性質を明らかにし,今後の研究課題を提示している.
13「オートマトンの教育用シミュレータ」東洋大学情報科学論集 26号(1995.3) pp. 71-89
この報告は,マルチポートオートマトンを動かすためのシミュレータ「FSMsimulator」に関するものである.マルチポートオートマトンとは複数入力ポートと複数出力ポートをもつオートマトンのことで、状態を構造化させ、複数の属性をもつことができるものである。マルチポートオートマトンのいくつかを結合させ、大きなシステムを階層的に構成し、その全体を動かすことがこのシミュレータの機能である。著者は,Macintoshのハイパーカードというソフトを利用して,ひとつのプロトタイプを作成している.
このシミュレータはオートマトンの理論概念とシミュレーション構造が1対1の関係になるように工夫し,理論と実践がうまくつながってゆくことを目指している。システムの状態の変化や階層構造が目で見えることも特徴である。視覚に訴えることで教育効果を高めるのである。本稿で強調したかったことは、このシミュレータを利用すればシステム理論の基本的な概念が容易に理解できるし、その後の教育展開もスムーズにつながるのではないだろうかということである。
14(単著)「ベイズ意思決定論における等価性原理のシステム理論的意義」東洋大学経営論集 43号(1996.3) pp. 1-8
この研究の目的は,意思決定の合成問題を定式化し,システム理論的な意義を明らかにすることである.合成問題とは,与えられた複雑な問題を,単純な部分問題に分割し,求解し,複数の部分解を結合させることである.この論文では,意思決定を目標追求システムとして定式化し,ベイズ意思決定論における「事前分析と事後分析の等価性」を再証明している.その結果,等価性のシステム理論的意味は「フィードフォワード型管理のための逐次意思決定への分割」であることが判明した.
15(単著)「数理的意思決定における計画と戦略」東洋大学経営研究所論集 19号(1996.3) pp. 27-37
この論文は,対象システムの出力を見ながら行なう,フィードバック型管理を扱っている.ここでは,対象システムへの入力列を計画と呼び,最適計画を求める問題(例:動的計画法)が,フィードバック型管理における管理ルール(最適戦略)を求める問題に変換できることを示した.具体的には,変換後の管理システムの最適戦略が,前者の最適計画と一致することを数理的に証明している.
16(単著)「システム理論を反映したシミュレーション技術---DEVS理論にもとづく離散事象シミュレーション」オフィスオートメーション学会誌 vol.17, no.1 (1996.3) pp.52-58
この論文では,「とくに理論があるとは思われていないシミュレーション」というものに対して,理論的なアプローチが可能であることを示した.例示として,B.P.Zeigler氏の提案している離散事象システム仕様(DEVS:Discrete Event system Specification)の理論と,それをオブジェクト指向プログラムによって実現した離散事象シミュレータ(DEVS-scheme)に関して言及した.
17(分担執筆)「第6章 意思決定を調整する」佐藤亮,飯島淳一編著『システム知の探求2(変換するシステム)』日科技連(1997.4)pp.147-173.
これは筆者の展開する「調整理論」を概説したものである.とくに,分析のための理論枠組みや研究方法を述べている.意思決定を要素とするシステムには,常に調整を必要とする問題があり,それを解決するために,ここでは階層構造をもつ調整システムを導入する.調整による解が望ましい組織全体解になっていることを実現性と呼び,これを定式化した.また調整が停止する条件などと調整構造の間の関係を述べ,研究方法を展望した.
18 (単著)「進化ゲームの基礎概念と分析上の注意点」東洋大学経営論集46号(1997.12)pp.87-104
進化ゲームの対象は、個体が純粋戦略だけをとれる集団(多型集団)と個体が混合戦略をとれる集団(単型集団)に分類でき、それぞれ、モデルも進化的安定性の定義も異なる。ここでは、多型集団と単型集団における前提や進化的安定状態の定義を解説し、解法に関する命題を新たに証明した。またモデル作成時における問題点を考察した。
19 (単著)「進化ゲームにおける均衡の安定性」東洋大学経営研究所論集21号(1998.2)pp.1-11
経済学にも進化ゲームが応用されている。ここでは、青木・奥野編『経済システムの比較制度分析』東大出版を例題に進化的安定性を調べてる。2技能2産業社会という多型集団の進化ゲームモデルをつくり、手計算とシミュレーションによって進化的安定な人口分布を求めた。しかし、先行研究と異なる解が得られた。その理由や、異同について考察した。