東洋大学RoboCupチーム

RoboCup Japan Open 2004 大阪大会 中型機リーグ 試合報告

最終更新日 2004-05-12 11:00

公式な情報(試合結果を含む)は, RoboCup日本委員会のページ をご覧下さい.


期間: 2004年5月1日〜4日
場所: 「インテックス大阪」(大阪市住之江区) http://www.fair.or.jp/robocup/
報告者: 松元明弘


中型機リーグの報告(参加者としての記録)

我々の参加している中型機リーグは, 以下の8チームの参加です.(参加登録順) 今回はこの8チームの総当たりで,5月1日から予選が始まり,予選を1日2試合ずつ3日間行い,最終日に予選の最後の試合を行なって, 午後にエキジビションゲームを2試合をはさんで,最後に上位2チームで決勝戦を行います.

我々東洋大学のRoboCupグループは,2002年の福岡でのRoboCup国際大会まで UTTORI United として 宇都宮大学・理化学研究所と共に合同チームを構成していましたが, 2003年のジャパンオープンからは東洋大学単独で Orient というチーム名で参加しています.

我々のロボットの構成は以下のとおりです.

Rook
主にGK.今大会ではFWとして活躍.
3自由度独立の全方向移動機構.全方位視覚.
Linux使用.UTTORI2000以来の古参.

Mamiya
MFまたはGK 四輪独立駆動型の全方向移動機構.全方位視覚.
Linux使用.UTTORI2002にデビュー.

Jupiter
MF 三輪独立駆動型の全方向移動機構.全方位視覚.
車輪には市販のOmniWheelを使用.
画像処理にHALCONを使用.Linux使用.

Gonta
MF Windowsコントローラ構築の評価用として採用.
お古の二輪駆動機構を再利用.IEEE1394の全方位視覚,
IEEE1394のモータコントローラ.

Ariel
MF 四輪独立駆動型の全方向移動機構.車輪には市販のOmniWheelを使用.
Linux使用.

チームメンバーは以下の通り.

以上7名.

以下は,個人的感想も含んだ,試合の報告です.


予選1日目(5月1日)

初日第1戦  vs 慶応大学 EIGEN 

EIGENにしてはスロースタート.試合開始時には2台しかそろわない.かつての世界王者はどうしたのだろう.試合直前にOSのシステムダウンでヒューズがとんでその復旧時にミスがあったせいらしい.また無線通信の不調(おそらく他との混信と思われる)と,天井から漏れてくる明るい日光で画像の取り込みの状況が変動は双方のチームに影響を及ぼしている.EIGENは前半途中からやっと3台目が登場した.一方Orientは1台(Jupiter)がハードティスクの不調で出場できず,4台でのスタート.前半はほとんど相手陣地で戦う.Gontaがよくボールを捉えていた.しかしMamiyaとボールを取り合うことが多い.またMamiyaはボールをはさんで押し合ったときに我がロボットの方が力が強いので相手を押し戻してしまい,プッシングの反則を多数取られてしまった.前半は 0-0 で終了.

後半はEIGENは4台が登場,一方Orientは4台とも揃って開始.何回かEIGENが攻め込むがぎりぎりのところで防御.後半Gontaが動かない.3端子レギュレータが破損していた.試合は押し合ってはフリーキックの連続であり,そのまま時間切れで 0-0 の引き分けで勝ち点1をゲット.我々にとってはラッキーなスタートであった.

EIGENは今回から全方向移動機構を持つロボットを(少なくとも)2台開発してきた.オムニホイールを四角形のコーナーに配置する機械設計.ただしその制御系のチューニングはまだこなれておらず振動的に移動する状態.サーボコントローラのゲイン調整の問題か,それとも画像系の問題か不明.


初日第2戦 vs 金沢工業大学 WinKIT 

WinKITは昨年のジャパンオープンの優勝チーム.今回も用意周到で参加している.今回は連携プレーがあるようで,センタリングしてシュートというような動作を実現してきたそうだ.このためには通信で意思の疎通をする必要があり,かつてUTTORIで実現していた協調プレーである.特に攻め込まれたということもなく,またRookやMamiyaがゴールをうまく守っていたのだが,少しずつ得点を取られ,前半で 0-4 の点差がついてしまった.今年から参加したArielもRookとMamiyaのソフトを流用してそれなりの動きなのだが,まだ機構系にやや不安が残り,RookやMamiyaほどの安定感がない.逆にいうとRookとMamiyaはうまく画像を捉えており,よい動きであった.Gontaはボールが見えない状態で相手陣地に取り残された状態が多かった.

後半はコーナー付近のボールの取り合いが続き,なかなか展開がない.Rookも何回かゴールをうまく守る.ゴールを飛び出したRookの代わりになぜかMamiyaやGontaがゴールを守ったりがあり,それなりの見栄えがあった.ただアンラッキーなオウンゴール2点を含み,徐々に点を取られ,通算 0-8 で終了.WinKITは「強い」という印象はさほどないのだが,故障退場のロボットはなく,安定して動いており,少しずつ点を重ねていく.我がチームもかくありたい.


初日終了時点で,Orientは0勝1敗1分けで8チーム中暫定6位.
(ここまで5月1日18時記)


予選2日目(5月2日)

第1戦 vs 三重大学 MINE
得点者
Mamiya 1
Gonta -1(自殺点)

前半は4台の出場から始まる.JupiterがLinuxの再設定のためまだ復活できていない.試合はGontaが最初はドリブルをするがゴールまで届かない.そうこうしているうちに,Gontaはなぜか自陣ゴールへドリブルを始め,Gontaの自殺点.攻めるゴール色の設定の誤りか画像調整のミスか.MamiyaもGontaも相手より力が強いために,ボールをはさんで相手を押し戻してしまい,プッシングの反則.相手がほとんどプレーしないのにOrientのロボットが場外に出たりシステムトラブルで,本来の調子を出せず,前半はそのまま 0-1 で終了.

後半も状況はあまり変わらず,プッシングの反則を取られつづける.相手ゴール前でニュートラルスタートがあり,ラッキーなことにMamiyaがそのまま押し込んでゴール. 1-1 .Mamiyaはボールをドリブルするときにボールが回転しないためホールディングの反則も取られる.通算イェローカードが4枚になり,退場となる.最後の頃はOrientが攻めつづけるが,攻めきれず時間切れで 1-1 で終了.


第2戦 vs 大同工業大学 DIT-RC 
得点者
Rook 2
Gonta 1

観客が隣の四足リーグ(通称AIBOリーグ)に取られて静かな試合.両チーム共にロボットの動きが遅いので,なおさら盛り上がりに欠ける.GontaとMamiyaがボールを取り合う状況が頻繁に起こる.相手は3台のうちフォワードの1台だけがまとも動いており,Orientとしてはチャンスが多いのにも関わらず攻めに行けない(行かない?).そのまま 0-0 で前半終了.

後半はRookをGKモードでなくFWモードで利用.RookとMamiyaはソフト的には共通部分がほとんどであるにもかかわらず,Mamiyaは控えめに動く(ボールを押してもすぐ進むのをやめる)がRookは突進するので,この特性からRookが得点を2点重ねる.その後,ボールにたわむれるGontaがいつのまにかゴール前に飛び出し,ボールを押し込んで自身初得点.そのまま 3-0 で試合終了.


予選2日目を終了して,1勝2敗1分けで暫定6位

(ここまで,5月2日18時記)


予選3日目(5月3日)

第1戦 vs 大阪大学 Trackies2004

OrientはJupiterの復活で双方とも5台でのスタート.Jupiterは三輪のうちの一輪に不安が残るがとにかく出場.Trackiesは5台はいるものの2台ほどしか機能していない.双方ともボールへの対応が遅く,スピード感がない.Mamiyaは相変わらずこつこつと進む.Gontaはボールにしばしばからむが,ボール操作がうまくいかない.2回ほどTrackiesのロングシュートがあるが,ポストに助けられたり,ゴール前に留まっているJupiterに当たったりとなんとかピンチをしのぐ.前半はそのまま 0-0 で終了.

後半はJupiterを除く4台からスタート.Mamiyaがボールに絡む.相手ゴール前に持ち込み,Trackiesも3台がゴール前に戻って防御.たまたまその2台がゴール前からどいてしまい,Mamiyaの絶好のシュートチャンスだがシュートもしないし前にも進まない.相手ディフェンスが戻ってきてMamiyaも押し込もうとし,結局のところ相手の自殺点をゲットする.1-0.その直後,攻め込まれ,ゴール右半分ががらがらのところに3mくらいのところからシュートされ 1-1 の同点.一進一退の展開.天井から差し込む日光の明るさの変化にも関わらずMamiyaはボールをよく捉えている.相手ゴール前で絶好のフリーのシュートチャンスとなるが前に進まず,またキックのエアーも抜けてしまっていたようで,シュートしない.どうもボールの上部が明るすぎて白もしくは黄色に見えるらしい.青ゴールの前に黄色が見えて判断が混乱したらしい.うーん,もどかしい.その後戻ってきたTrackiesのディフェンダーにうまく回り込まれてボールを取られる.Orientは攻撃も守備も課題はたくさんあったが,相手の調子の悪さにも助けられ,そのまま 1-1 で試合終了.


第2戦 vs 九州工業大学 HIBIKINO-MUSASHI 
得点者
Rook

Musashiが決勝に進出するかどうかはこの試合次第であり,そのため,Musashiと共に2位〜5位争いをする競合チームである Muratec,EIGEN,TrackiesがそろってOrientの応援をするという珍しい光景である.Orientは,Jupiterはまだ完全ではないが出場.試合中も一軸の不具合により自分の回りにぐるぐる回るだけ.相手も揃って5台ずつで試合開始.Musashiのキックは強く,ディフェンスにいても強いキックによって一気に陣地を回復する.Orientは接近戦に持ち込みそのキックを防ごうとする.しかしながら相手のミドルシュートにより先制され, 0-1.このままずるずるといくのかと不安がよぎる.この試合ではRookをFWモードで使用.相手キックオフの時にはGKのポジションから動き始めるが,味方キックオフのときはRookにキックオフさせ,そのまま攻めさせる.キック力は以前より弱いが,ころころと転がりながらもゴールポストに当たる惜しいシュートが2本ある.ややじれったい.Musashiは守備がずさん.不具合による退場が相次ぐ.GKは不調のようだ.FWモードにしたRookが単独ドリブルから押し込み,同点とする.前半は 1-1 で終了.

後半は一進一退の状況.ボールにたくさんのロボットが群がる状況.その中で,Musashiのロボットが3台並んでボールを取り合っているところに,Rookがうまく回りこんでボールを取り出した.Musashiのロボットの車輪が2輪独立駆動機構であるのに対し,OrientはGontaを除いて全方向移動機構であることの優位性が出た.そこからRookが鈍足ながらドリブルし,なんとか押し込み得点する.2-1.このときに横にいた慶応大学の吉田教授が大喜びする(Musashiが負ければEIGENは2位の可能性が残るからである).残り約3分.Musashiは強力キックで陣地挽回するもその次の手が続かない.双方ボールをうまく捉えることができず,状況が変化しない時間帯が続く.双方がボールを取り合う場面ではOrientの接近戦が効を奏しそのまま時間切れで,2-1 の勝利.Musashiの決勝進出を阻んだ,Orientの快勝である.ここに至って,昨日の三重大学MINEとの引き分けが悔やまれる.暫定6位であるが,予定通り勝っていれば4位もあり得た.


予選3日目を終了して,2勝1敗3分けで暫定6位

(ここまで,5月3日17時記)


予選4日目(5月4日)

第1戦 vs 村田機械 Muratec

Orientは5台の出場をさせるがJupiterは相変わらず暴れん坊.これをGKとしRookはFWで出場.Mamiya,Ariel共にボールが近くに見えないときには黄色のマーカーをオレンジ色に見誤っているようで,ボールのないところで動作.相手のMuratecは途中何回もシュートチャンスになるが,ロングシュートはたまたまJupiterのいた所に来て失点ならず.Gontaがゴールによく絡み,接近戦とする.途中相手黄色ゴール付近に留まったArielを運び出すときに誤って相手のロボットを転倒させてしまう.これに伴う処理もあり,前半は相手にサッカーをさせず, 0-0 で前半終了.

後半はArielが相変わらず黄色ゴールをオレンジボールと誤認識し,しばしば退場する.Muratecが中央付近から蹴ったボールがOrientのロボットに当たり,がらがらのゴールへ入る,アンラッキーな失点で 0-1.しかしその直後,Rookのキックオフが相手ゴールポストに当たり,たまたまバックしてきたMuratecのGKにあたりラッキーな得点で,1-1.その後もGontaが相手に絡み得意のキックをさせない.最後の方はRookもMamiyaもボール画像をよく捉えるようになったようで,動きがよくなる.天井からもれてくる外光の変化がこれほどまでに影響するのか.今後の技術的課題である.このまま時間切れとなり,1-1 で試合終了.Muratecの決勝進出を阻んでしまい,昨日に続いて大物食いが続く.

最終的に,順位は変わらず6位であったが,学生たちの努力と健闘に拍手を送りたい.今回は3年生,2年生も巻き込んでのチーム構成であり,この経験は来年に続くものと思われる.


予選試合結果

Muratec Trackies MINE EIGEN Musashi WinKIT DIT-RC Orient 試合数 勝ち 引分け 負け 勝ち点 得失差 順位
Muratec
(村田機械)
-
0-2

8-0

0-3

3-1

0-6

4-0

1-1
7
3
1
3
10
+3
5
Trackies
(大阪大学)

2-0
-
6-0

0-1

0-1

0-6

5-0

1-1
7
3
1
3
10
+5
4
MINE
(三重大学)

0-8

0-6
-
0-4

0-2

0-9

1-0

1-1
7
1
1
5
4
-28
7
EIGEN
(慶応大学)

3-0

1-0

4-0
-
1-3

0-1

3-0

0-0
7
4
1
2
13
+8
2
Musashi
(北九州連合)

1-3

1-0

2-0

3-1
-
0-7

4-1

1-2
7
4
0
3
12
-2
3
WinKIT
(金沢工大)

6-0

6-0

9-0

1-0

7-0
-
8-0

8-0
7
7
0
0
21
+45
1
DIT-RC
(大同工大)

0-4

0-5

0-1

0-3

1-4

0-8
-
0-3
7
0
0
7
0
-27
8
Orient
(東洋大学)

1-1

1-1

1-1

0-0

2-1

0-8

3-0
- 7
2
4
1
10
-4
6

(正式結果はRoboCup日本委員会ホームページ参照)


エギジビションゲーム

予選最終戦と決勝戦の間に,エギジビションゲームを10分×3本行った. 対戦は,以下の通りである.

紫色チーム
Musashi (予選3位) + Muratec (予選5位) + MINE (予選7位)

水色チーム
Trackies (予選4位) + Orient (予選6位) + DIT-RC (予選8位)

試合は各チーム2台ずつ持ち寄っての,一種の選抜チームで行った. ロボット同士の通信は当然できないので,個人プレーの集まりしかできない. しかしながら面白いことに, それぞれのロボットは各チームでも安定したロボットであるせいか, その持ち味を見事に発揮し, また予選では見られなかったプレーも見せ, よく動いていた. 試合自体は 5-3 で紫色チームの勝利で終わったが, 予選よりもはるかに面白いゲーム展開となり, しかも両チームの得点の取り合いになり, またMuratecの森口氏とOrientの私の2名によるアナウンスおよび解説により 試合は盛り上がった.多くの観客に楽しんでいただけたと思う.


決勝

金沢工業大学 WinKIT vs 慶応大学 EIGEN
0-0
(PK 0-1)

決勝は,予想通りWinKITとEIGENの対決となり,昨年のジャパンオープン新潟大会と同じカードとなった.いわば伝統の一戦である. WinKITは予選無失点であがってきた.EIGENは予選で苦しみながらも予選後半に少しずつ調子を上げてきた.WinKITはよくボールに絡んでいたが,これまでの試合と違って動きに不安定さが出る.ボール操作に難がある.EIGENも得意のダッシュやキックが出ない.コーナー付近からのボールの取り出しがうまくいかず,しばしばセンターサークルからのニュートラルスタートとなる.試合はそのまま 0-0 で終了した.手に汗を握るといえばそのとおりなのではあるが,この決勝の前に行われたエギジビションゲームの方がはるかに盛り上がった.

さて決勝では本試合で決着がつかない場合にはPK戦を行う.延長戦をやらないのはバッテリーの制約である.中型リーグでは,最初に一方のチームが5本蹴る.キッカーは代わってもよいし同じでもよい.ボールをペナルティスポットに置き,キッカーはセンターサークルから動き始める.キックするまでGKは動いてはいけない.蹴ったボールがGKに止められたりポストに当たったりして前に進まなくなった時点で終了である.両チーム共に5本を蹴り終わって,すべてGKに阻まれる状況であった.その後は両者1本ずつ蹴って,決着のついた時点で終了する.後攻めののEIGENがキッカーを全方向移動機構車に交代し,床面依存でロボットの姿勢角を変えようという戦略.これが2本目に効を奏し,得点して慶応大学の劇的な逆転勝利で決勝戦の幕を閉じた.


(ここまで,5月4日17時記)


総評

今回の大会は例年より面白い大会でした.その理由は,

といったところです.

課題としては,

等でしょうか.

信頼性に対する対策ですが,例えば,

など,非常に地味ではありますが,普段から考慮すべき技術はたくさんあります. これらの点では,特に と思いました.

いろいろなチームで,試合以外にも技術交流すべきでしょう. そうしないと日本全体として他国に負けてしまいます.

(この部分,5月8日記)


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written by Akihiro MATSUMOTO
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